『念力家族』 自選20首

注射針曲がりてとまどう医者を見る念力少女の笑顔まぶしく

憧れの山田先輩念写して微笑む春の妹無垢なり


シャンプーの髪をアトムにする弟 十万馬力で宿題は明日


待ちに待った歌舞伎公演中止となりて祖母の三味線 音は閃電(いなずま)


校庭にわれの描きし地上絵を気づく者なく続く朝礼


立たされたまんま死にたる子のために建立されし廊下地蔵や


校廊のどこかで冷える10円玉 むらさき色に暮れる学園


マンモスの死体をよいしょ引きずった時代(とき)の記憶をくすぐる綱引き


少年時友とつくりし秘密基地ふと訪ぬれば友が住みおり


あの夏の石段の上僕の背を押した少女よ どうしてますか


むかし野に帰した犬と再会す噛まれてもなお愛しいおまえ


寝不足の少女が飛んだ水溜り台風一過の村の静けさ


金星の王女わが家を訪れてYMOを好んで聴けり


虚無僧が過ぎてゆくのを待ってます。春の座敷に正座しながら


コックリさんが帰ってくれない放課後の夕陽に咲いている少女たち


ゲラゲラと笑いころげる真夜中も東京タワーは涼しく炎(も)えて


部屋中に怪獣図鑑ちらかしてサイダー太りのこどもは眠る


Gパンを履きたる祖父に実写版鉄腕アトムのような哀しみ


入学式のひかりに満ちた校庭の誰も時空を逃れられない


中央線に揺られる少女の精神外傷(トラウマ)をバターのように溶かせ夕焼け